笙とは
雅楽で演奏される管楽器。鳳笙の美称もあるように、その形は鳳凰が羽を休めた姿ともいわれる。起源は、はるか古代中国にさかのぼり、楽器の歴史上もっとも古い時代に現れ、後に世界に伝播したフリーリード系楽器の祖と位置づけられる。
日本に現存する笙の優美な姿と天上の光をあらわすとされる豊かな音響は、楽器としての洗練の極みをもって、いにしえから変わることなく生きいきと人々の心に潤いを与える存在である。
歴史
笙は古代中国・殷(B.C.1400~1122)の時代の記録に現れ、日本に伝えられた様な姿になったのは漢(B.C.206~8)の時代といわれている。
大宝令(701)/雅楽寮の記述に見られるように日本にはこの時期に雅楽(唐楽)の楽器として伝来したと考えられる。正倉院には現行の笙とほぼ同様な楽器が残されている。
後、平安期の日本文化の黎明期に雅楽の日本化の過程で、より日本人の感性に沿った改良により完成され、現在に至る。
特徴
和音楽器
日本の楽器の中で唯一和音を奏でることのできる楽器である。
形状と発音機構(1)
全長約50cm。楽器底部の漆塗り椀型の「頭(かしら)」が設けられ、17本の真竹製竹管が環状に差し込まれ、銀製の「帯(おび)」で固定されている。
古典的な仕様では17本中15本の竹管の下部末端に長さ1~2cmほどの銅合金製の「簧(した)」が取り付けられる。「簧(した)」は、各々固有の音高で調律され、共鳴体として備えられる竹管とのあいだで振動数に応じた共振が成立することにより発音する機構である。
また、音高は古典的奏法に適した配列がなされ、外観上の規則的な並びと異なる。
奏法と発音機構(2)
笙の「簧(した)」はフリーリードで、厚さ0.5mmほどの板状の銅合金にコの字型の切れ込みがあり、これが前後に振動することにより、呼気、吸気のいずれにも応じて発音する仕組みとなり、「気替え」という笙独特の奏法として音の持続を可能にしている。
炭火であぶる? 発音機構(3)
笙の演奏の前後に楽器を暖める必要が生ずる。笙の「簧(した)」は切れ込みの一端に鉛粉と蝋によるわずかなおもりをのせ調律するほか、リードの表裏に微粒上の青石(孔雀石・マラカイト)を薄く塗り乾かすが、一定の温度で調律された音高と、呼気による結露を避け「頭」内の乾燥を維持するための物理的温度管理が目的である。
笙の音響
笙の音響は和音の持続によって「天上の光」と称される独特の効果を生みだしている。近年、その周波数特性と知覚効果について研究を行った結果、「合竹(あいたけ)」とよばれる和音奏法時に生成される高周波非可聴域成分の存在と、感性情報処理上の影響を確認するに至った。
発音機構をはじめ様々な面で合理的に作られ、拡張性を持って完成されたこの楽器は音楽における時空間性をまさに全身で体感することのできる生きたメディアである。